天翔る奇跡たち
 何気に廊下に出ようとしたら、ぼそぼそ言う声が聞こえた。

「し、死に神ッ?」

 狼狽するガナッシュなんて、初めて見た。

「死に神としてではなく、彼らをねむりに誘うのが僕の役目ですから」

 あたしは入り口のヴェールに隠れてたけど、こちらからは丸見えだった。ジャガーさんは仕方なさそうに笑った。

「ときにあるのです。仲間殺しに、精神が耐えられなくなるものが」

「だからって……」

「そのときのために、僕がいるのですよ」

 そんな……あの子達が……

 あたしは自分で死ぬ事もできずに、崩れていく彼らの顔が見えた。信じられない。信じたくない。そして、そんな覚悟で彼らのそばにいるジャガーさんも。

 何て……ことなの?

 あたしは思わず口を覆った。止まらない涙が頬を伝い、床を濡らした。



 
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