天翔る奇跡たち
オ・マ・ケ
side:グリフ


 俺は十六歳だった。

 彼女が両親を失い、村長の紹介状一つもってあの恐ろしい悪魔神教の領主のもとへ行き、箱詰めにされて、沼に沈められそうになっていたのは。

「たすけて」

 とすら言わなかった。ただ、抱擁を。ただ感謝の声を聴かせてくれた。アップル……

 十四歳の脚で付いてきた。行くところがないからと。働き口を探したい、と……

 そのままになんか、しておけなかった。

 華奢な脚を痛めて、それでも泣かずに付いてきた。放ってなんかおけなかった。

「神様」と君は言った。あんな状態で、神に祈ることのできる無垢な心と、強さ。それを眼前に知らしめた神のみわざ。全てに、感謝した。

 山の一つや二つ、兵士としては鎧姿で長距離行軍することも経験してきた。あんな小さな手足をした女の子一人背負うのなんて、何でもない。

「僕はこの子の神様だ」って、うれしかったんだ。

 妹ができたみたいで、僕にはこの子を救う力があるって。

 後悔なんかしない、って決めた。

 思い上がりだって、知ってたけど。

 自分を神に喩えたことも。

 たとえ一瞬でも、それを誇らしく思ったことも。


「……忘れないよ……」


 アップル。





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