ヤンデレな人たち
2話 マッチ売りのヤンデレ
   第二話 マッチ売りのヤンデレ



 全てはあの人に。あの人のために。



 少女は寒い中、街でマッチを売っていた。冬も一番厳しい頃である。薄着で所々次当てされている物を着て、街行く人たちに向かってマッチを売る。しかし、彼女の見た目もあってか誰も足を止めてマッチを買おうという人はいない。寒いからこそ足を止めずに帰っていく。



 寒さで手がかじかむ少女は売り物であるマッチを擦って暖を取り始める。



 一本目のマッチを擦ると、一人の少年が浮かんできた。優しそうな笑顔の少年だ。



「あっ……」



 少女は驚いた。寒さで幻影が見えているのだろうか。その手を触ろうとすると、彼の手の感触が伝わって来た。暖かい、血が通った手である。



 そこでマッチの炎は消えてしまった。同時に少年も消えてしまう。



「ああ……」



 少女は再び火をつける。再び少年が現れる。すぐに彼の手を握って離れないようにギュッと強く掴んだ。その時間はとても幸せの時間だった。淡い恋心を彼に抱き続けていた自分がこうして彼と手をつなげるなんて夢にも思わなかった。



 そしてマッチの炎が消えて、すぐにマッチに火をつける。そして再び彼との時間に浸っていく。



 マッチは見る見るうちに消費していき、一箱に二十本あったマッチ箱が四箱目に差し掛かった時に異変が起きた。
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