教育実習日誌〜先生と生徒の間〜

美羽ちゃんもおそらく、ここへ来る前に覚悟していたんだと思う。


涙をティッシュで拭きながら


「はい・・・・・・私の携帯の履歴を見たら、すぐに出ます」


そう言って、テレビ台の下を指さした。


悪いけど、勝手に見せてもらうしかない。ここでは電源を入れられないから。


「それじゃあ、デイルームで見てくるね。すぐに戻るから」



一度、病室を出た。


デイルームを探して廊下を歩くと、あちこちから赤ちゃんの泣き声が聞こえてきた。


無事に生まれた赤ちゃん。


でも、それはとてつもない奇跡なんだって、あらためて思った。



デイルームで美羽ちゃんの携帯を開いて、電源を入れる。


私の携帯も電源を入れて、美羽ちゃんの履歴を調べる。


えっと、『吉川先輩』ね。


確かにすぐ見つかった。


昨日の夕方、私が迎えに行く前に通話したことになっている。


その番号を私の携帯に入れて、すぐに二つとも電源を落とす。



病室へ戻ると、美羽ちゃんがお茶を飲んでいた。


泣き止もうと必死で、だけどしゃっくりが止まらない様子が、何とも痛々しい。


「携帯、ありがとう。松本先生と彼に伝えたいことがあったら教えて?」


そう言うと、美羽ちゃんは、今まで聞いた中で一番はっきりと答えてくれた。


「私は、絶対に産みます」



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