教育実習日誌〜先生と生徒の間〜
美羽ちゃんの伝言を胸に、駐車場へと向かう。
先生の車はさっきと同じ場所に停まっていた。
ドアを開けて助手席へ乗り込み、まずは吉川君の電話番号を赤外線で・・・・・・と思ったその時。
駐車場の向こう側、病院の正面玄関から、ここのところ毎日見ている男子が出てきた。
「菫、伏せろ!」
がつんっ!
慌てて頭を下げた私は、グローブボックスに思い切りおでこをぶつけた。
痛いけど、涙目だけど、我慢だ私!
先生は、ハンドルにもたれかかるようにして、彼の観察を続けている。
「あいつの親父さん、高校入試の直前に、脳梗塞で倒れたって言ってたからな。
お袋さんと二人がかりで、親父さんのリハビリに通ってるんだろう。
単なるチャラ男じゃないんだよな、香西ってさ。
しっかりした、いい奴だよ。
お、車椅子から抱きかかえて、車に乗せて、と。さすが、高校生の息子は頼りになるな」
初日にいきなり『先生のスリーサイズは?』と聞いてきた香西君。
見た目によらず、結構しっかりしてるなという気はしていたんだ。
いつも教室の中心にいるようでいて、寂しそうな子を見つけると、絶対にそこへ行って何か話しかけている。
ものすごく、気配りのできる男子だと思っていたんだよね。
私にスリーサイズなんて聞いたのも、きっと先生が止めるのを見越して、場をなごませるためだったんじゃないかな?