教育実習日誌〜先生と生徒の間〜
「それで、お前自身のご両親は何て言ってるんだ?」
『美羽の希望を最優先にしたいそうです。
そのためにできることは何でも協力する、と言っています』
「へえ。ずいぶん物分かりがいいんだな」
ちょっと、意外だった。
医者の息子だから、しかるべき時期に、それなりの相手と結婚して欲しいとか、そういう希望があったはず。
……いや、網元だって、かなりの金持ちには違いないが。
家庭訪問で行った家は、海岸沿いの国道に建つ、まさに鰊(にしん)御殿。
木内はこの大きな家で、大勢の漁師に囲まれて育ったはずだった。
俺は密かに、木内の場面緘黙症は、この家庭環境によって引き起こされたのかも知れないと思っている。
『いえ……物分かりがいい、というより、父が中絶に反対しているんです』
「お前の親父さん、産婦人科医だよな? なんで?」
『それが、詳しいことはまた今度話すって言って、当直のために病院へ戻ったんです』
「そうか。じゃあ、また木内の様子やそっちの話し合いに進展があったら連絡してくれ」
『はい、ありがとうございます』
電話を切ると、またしても興味津々な顔をした菫の質問攻めにあった。
……教員と実習生の禁断の関係ごっこの続き、どころじゃないな、残念ながら。