教育実習日誌〜先生と生徒の間〜
他の実習生もいる控室では話せない内容なので、裕香を廊下に連れ出す。
同じ階にある視聴覚室へ。
朝の職員会議が始まるまで、あと10分しかない。
5分前には職員室へ入りたいから、大急ぎで何とか説明しなくちゃ……。
中庭に面した視聴覚室は、日当たりが悪くてひんやりとした空気が漂う。
ドアを閉めて、立ったまま小声で話す。
「あのね、岡崎先生が実習生の面倒を見たがらないのには、訳があるみたい。
不妊治療をしていて、おそらく治療を最優先にしたいからだろうって、松本先生が言ってたの」
「不妊治療?」
裕香の疑問はもっともだった。私もよく知らないもん。
「もちろん、詳しいことは解らないけれど、昨日の年休もその治療のために取ったんだと思うって。
多分、他の先生方も知らないはずだって言ってたよ」
詳しく説明している時間はない。
「でも、何で菫がそれを知ってるの?
松本先生は菫にだけそれを話して、当事者の私にどうして教えてくれないの?」
……それも、言われることは覚悟していた。
本当は実習が終わってから打ち明けようと思っていたけれど、裕香の気持ちを考えたら今言うしかない。
長い睫に縁どられた、裕香の目をしっかりと見て話す。
「裕香、今まで言えなくてホントにごめんね。
実は私……
松本先生と結婚の約束をしているのっ!!
だから、先生は……」