教育実習日誌〜先生と生徒の間〜
静かな発声練習が終わり、ますます固くなる裕香の表情。
生徒が乗り気じゃないというのが丸わかりで、見ているこちらもヒヤヒヤしてしまう。
その時、後ろの入口からもう一人、参観者が来た。
先生、来てくれたんだ!
先生も指導案を手に取り、私のすぐ右隣に並んだ。
一瞬、裕香がこっちをちらっと見て、それから。
「それでは、発声練習の最後は既習曲の大地讃頌をみんなで歌います。
よろしかったら、先生方もどうぞ。指導案の後ろに楽譜がついています」
そう言いながら、今度は明らかに私の顔を見て笑っていた。
なるほどね、任せて!
大地讃頌、高校時代は歌ったことなかったけど、中学校の文化祭で歌ったもん。
懐かしいイントロ。
かなり前に歌った曲だけど、ソプラノのパートならバッチリ。
出だしのソプラノがしっかりしていたら、他のパートもちゃんと支えようとするからって、中学時代の音楽の先生が言ってた。
音楽室に響く、裕香と私のソプラノ。
生徒がみんな、こっちを振り向く。
振り向いてる場合じゃないでしょ、あなたたちも声を聴かせて!
そんな気持ちで歌うと、両隣で男声パートも頑張ってくれた。
左隣の渡辺君、テナーなんだ。さすが体育会系、いい声!
そして、先生はバリトンで下から支えてくれた。
私達に負けじと、生徒も声を出し始める。
音楽室の雰囲気が、一気に変わったのを感じた。