教育実習日誌〜先生と生徒の間〜
私がそんなことを考えていたら。
「T音楽大学音楽学部音楽学科の岩谷裕香です。
1年生から3年生までの音楽の授業を、皆さんと一緒に楽しみたいと思います。
よろしくお願いいたします」
体育館が、かすかにざわめく。
みんな、気づいてしまったらしい。
高校時代の私の親友でもある裕香(ゆうか)は、この辺りでは有名な音楽一家の出身。
お兄さんの響介さんは、アメリカの音大を卒業した、プロのピアニスト。
こっちでも『凱旋コンサート』を何度か開いていたっけ。
裕香は『私とお兄ちゃんじゃあ、全然レベルが違うんだ~』なんて言ってたけど、私にはどっちの演奏だって素晴らしく聴こえるよ。
裕香も教員免許を取ることにしたと聞いて、私はとっても嬉しくなった。
先生と裕香がいてくれたら、この2週間は本当に楽しくなりそうだったから。
……実は、裕香にもまだ先生と付き合っていることは内緒にしている。
いつか、裕香にだけは打ち明けたいけれど、せめて実習が終わるまでは余計な気を遣われたくなかったし。
優しくてしっかり者の裕香なら、ちゃんと秘密を守ってくれると思う。
その、いつも私の『頼れるお姉さん』だった裕香が、あんなことになってしまうなんて……。