教育実習日誌〜先生と生徒の間〜
「あ~、先生、菫ちゃん泣かせた~」
「うわ、女泣かせ!?」
なんていう生徒からの冷やかしの言葉を聞き流すかと思いきや。
「俺は許されるんだ!」
と、澄まして答えている。
すかさず
「まさか菫ちゃんとデキてる訳じゃないよね!?」
って聞いてくるあの目ざとい佐藤さんからの質問には
「ははは。結婚式には呼んでやる」
なんて、冗談とも本気とも取れちゃうような返事をしていて、驚いた私の涙は引っ込んでしまった。
「先生、本気で彼女と結婚したほうがいいよ」
「そうそう、もう32なんだからさっ!」
……生徒は当然ながら、本気にしてなかったらしい。
全く、感動のシーンだったのに、どうしてこう雰囲気をぶち壊す天才なのっ!
まあ、カッコいいから許す。
放課後は、大学へ提出するための書類と実習日誌を整理。
実習生控室は、沢山の花束でいい匂い。
裕香も、クラスの生徒と岡崎先生から、花束をもらっていた。
ト音記号と音符の飾りがついた、とっても可愛らしい色鮮やかなチューリップ。
裕香も教室で泣いたっていうのが解る、充血した目。
きっと、実習生の中で一番頑張っていたのは裕香だと思う。
この2週間、裕香にとって辛くて厳しい毎日だったはずだけど、最後の一日は穏やかに過ごすことができたみたい。
書類と実習日誌をまとめて、職員室にいる先生へ提出すれば、私達の教育実習は終わり。
そのまま大学へ送られるため、先生からの最後のメッセージや評価は、大学の前期評価が終わるまで見ることができない。
早く提出しないと、先生の仕事が終わらなくなっちゃう。
今夜は、先生方が実習生のご苦労さん会を開いてくれることになっていた。