教育実習日誌〜先生と生徒の間〜
初めて
隣の部屋で、かすかに着うたが聞こえてきた。
……リトル・マーメイドのテーマソング?
何だか、先輩っぽくない選曲だと思ったけれど、可愛いかも。
今頃、私のメールを読んでいるはず。
心臓が口から飛び出そうなほど、どきどきしていた。
すぐに返事が来た。
『いまからそっちへ行ってもいい?』
え? 今から?
時刻は夜10時を過ぎていた。
しかも私はパジャマ姿。
どうしよう、とりあえず、何か上に着ようと思って、タオル地のパーカーを羽織った時。
小さなノックの音が聞こえた。
もう、来ちゃったの!?
下宿のおばさんや、他の人たちに見られたら大変だと思ったので、すぐにドアを開けて、先輩に入ってもらった。
小さな声で、耳元で囁くように言われたのは。
「嬉しくて、どうしてもミウちゃんの顔を見たくなって。
こんな時間なのにごめん。でも、直接言わせて欲しかった。
俺の彼女になってください」
甘い囁きに、信じられない気持ちになりながらも
「はい」
と返事をした。良かった。声が出た……。
嬉しくて、ほっとして、緊張から解放されて。
また、泣きそうになってうつむいたら、先輩にそっと抱きしめられた。
「勉強も、言葉も、俺がフォローできることはするから。
これから、よろしく」
高校生になって初めて出来た彼は、本当に優しい人だと思った。