教育実習日誌〜先生と生徒の間〜

「木内さん、ここは妊婦さんの集中治療室なので、大人数で長居はできません。

場所を移して親同士で話し合いましょう」



私を気遣って、先輩のご両親がうちの両親をどこかへ連れ出してくれた。


正直、ほっとした。



病室から両親が出ていく前、勇気を出してもう一度伝えた。


「お父さん、ごめんなさい。

私は赤ちゃんを産みたいの」


お父さんは、返事をせずに出ていった。


後に残ったのは、先輩と私。



「……ごめん。一番責められるのは俺なのに」



点滴の針が刺さっていない方の手を取って、握ってくれる先輩。



「俺がちゃんと避妊しないのが一番悪いって、松本先生にも言われた。

うちの父もそう言ってた。

一番大事なミウも、ミウのご両親も傷つけて、最低だよな、俺……」




先輩も、私の担任の先生と、自分のお父さんから色んなことを言われたはず。


家族も巻き込んで、みんなを傷つけることになるなんて、私達は想像もしなかった。


知らなかったでは済まされない。


だって既に私のお腹には赤ちゃんが育っているんだから。


菫先生のお母さんが言った言葉を思い出した。



『一度産むと決めたなら、過ぎたことをいつまでも悩まないの!

これからの事を、相手とよく話し合いなさい』



そう、二人で後ろ向きになってはいられない。


ママになる私は、強くならなくちゃいけない。



「先輩は、この子のたった一人のパパとして、できるだけのことをしてください。

私はとにかく安静にして、この子を大切に育てますから」

< 283 / 290 >

この作品をシェア

pagetop