教育実習日誌〜先生と生徒の間〜

助産師さんにマッサージしてもらいながら、痛みをこらえる。


まだ産まれちゃダメ。


パパが来るまで、あとだいたい3時間。


赤ちゃん、もうすこしママのお腹の中にいてちょうだい。



お義父さんが時々様子を見に来てくれる。


「トモアキ、今こっちの駅に着いたから、あと20分でここへ来れるよ」


返事をちゃんとするだけの余裕もなく、必死で頷く私。


赤ちゃん、あとちょっとでパパが来るよ。



LDRのベッドが、分娩台の形に変えられた。


陣痛の合間に祈ったのは、赤ちゃんの無事と先輩のこと。


二人の赤ちゃんだから、出産も二人で分かち合いたかった。


こんなに苦しくても我慢できるのは、赤ちゃんに会えるという喜びが待っているから。


こんなに痛くても耐えられるのは、先輩の「ミウ、よく頑張ったね」という言葉を期待しているから。


こんなに辛くても泣き叫ばないでいられるのは、お義父さんや助産師さんが適切に対応してくれるから。


みんなが、私の赤ちゃんを無事にこの世へ迎えようと、必死だから。



「ミウ! 遅くなってごめん!」


先輩がやっと来てくれたのを見て、それまで堪えていた涙があふれてきた。


私の手を握ってくれた先輩の手はとっても冷たくて、前髪は上に跳ねている。


先輩は不器用だけど、どんな時も一生懸命な人。


曇った眼鏡を外して、私を見つめる目はいつもの「本気」の目だった。


これから二人、本気で幸せな家族を築き上げるために頑張るんだよね?


そのための第一歩が、この「産みの苦しみ」だから……。




私は先輩と二人で、この世に一人の人間を生みだした。

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