教育実習日誌〜先生と生徒の間〜

「R大学文学部日本文学学科の、安西菫です。

2週間、精一杯頑張りますので、よろしくお願いします」



全校朝会。


菫のちょっと甘い、高めの声が、体育館に響く。


職員朝会の後、菫には言っておいた。


挨拶は最低限、短くはっきりまとめておしまいにしろと。


HRでちゃんと自己紹介する時間をやるから、うざがられないように短く、これが基本だ。


忠告をしっかり守って、いい挨拶ができた菫を、体育館の一番後ろから見守る。


……やっぱり、俺の菫が一番可愛い。


つい、にやけそうになるから、一番後ろにいる訳、だったりする。




全校朝会が終わり、一度職員室へ戻って、菫が昨夜見たがっていたものを渡す。


「安西先生、うちのクラスの生徒の写真と名簿です。

3日で全員覚えてください。

実際に教員として現場に入った時、クラスをまとめるための勝負は3日で決まります。

私たちはそれを『黄金の3日間』と呼んでいます。

この3日は、お試し期間です。生徒も教員を試していますから、慎重に行動してください。

ここでどう動くかが、これから先のクラス運営に大きく影響しますから。

頑張ってください」



俺が昨夜、写真と閻魔帳を渡さなかったのは、こういう訳もある。

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