教育実習日誌〜先生と生徒の間〜

教室へ向かって、菫と二人で廊下を歩く。



「安西先生、挨拶の言葉は考えてきましたか?」


「はい、一応……」



当然だが、どこで誰が見ているか判らないので、校内ではずっとこの口調だ。



「昨夜、色々考えましたが……生徒からの質問で、答えにくいものがあった場合は『プライベートな事なので、お答えできません』と言ってもかまいません」



黙って考え込む菫が、俺を見つめる。


気が付いた、だろ?



「それでは、仮に生徒から『彼氏はいますか』という質問が来た場合、そう答えてもかまわない、ということでしょうか?」


「私は嘘をつくことが嫌いです。だから、安西先生にも嘘をつかせたくはありません。

ノーコメントで通す、という方法もあるのです。

ただし……この場合のノーコメントは、生徒側からすると『彼氏がいる』という風に受け取られることを覚悟してください。

いない場合ははっきりと『いない』と答えるのが普通ですから」



そう……それはもう、色々考えた。


ありとあらゆる場面を、頭の中でシミュレーションしてみて解ったこと。


……この、とぼけた実習生を確実に守るためには、やはりこれしかない。








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