恋の相手はメイド君!?

「……うそ」


千尋だった。


あれは、あたしが想いすぎたために見た幻覚か。


いやでも、お母さんには見えている。


挙動不振に、家の周りをウロウロしていた。



背が高いから、千尋がよく被る黒のニット帽が見えているんだ。



え? え?


これは、なんだ?



「早く追い返してきたら、まだおること認めたるけどなぁ」


「え、あ……わかった」



とりあえず、外に出てみよう。


見間違うはずはないけど、もしかしたら千尋のそっくりさんかもしれない。


それならそれで、神様は意地悪だよね。


人がせっかく忘れようとしている時なんだから。




それでも、あれはやっぱり千尋だ。


千尋がいる。


なんのために?


何で、あたしの実家に?


あ、もしかして勝手に逃げたから文句を言いに来たとか。



うわぁ、どうしよう!


ドキドキしすぎて、頭の中が混乱している。



玄関でウロウロしていると、タイミングよくピンポーンと鳴った。




―ドキン!!


ち、千尋かな?


古い家の硝子引き戸には、くっきりと長身の影が映しだされていた。

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