素直に
 勇太君は音楽の話になると、勉強の真っ最中と違って、生き生きし始めるのだ。


 それは僕も彼から話を聞いていて分かる。


 熱意が伝わってくるのだ。


 彼が心の底からバンドをやりたいという。


 そしてあわよくば、その業界で成功したいということをも。


 僕は今度面談があった場合は、勇太君の両親である哲史や裕香子に伝えるつもりでいた。


「進学じゃなくて、ご本人の希望するバンドの活動をさせてあげるのが一番いいんじゃないですか?」と。


 僕自身、今在籍している秋光大文学部の仲間でも辞めていった人間は多数いた。


 そういった連中は大抵、大学の学問に愛想を尽かしたからである。


 確かにドイツ語の研究などマニアックで、普通の人はあまりしたがらないだろう。


 それにどう考えても、院まで行ってしまえば、修士でも博士でも就職先は限られてくるのだし……。


 今時、Ph.D.など何の値打ちもないからである。


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