素直に
 所定の単位さえ取って論文を書けば、誰でも取得できるからだ。


 僕も将来的には上原教授に就くつもりだが、慧子の方も大学に残るつもりでいるようだった。


 彼女は普通に知的な人間だから、大学でやる学問に一番興味があると思う。


 僕はその夜、午後九時過ぎまで勇太君の家庭教師をした後、彼のご両親に学習した内容を一通り伝えて、家から出た。


 自転車で夜風に吹かれながら、自宅マンションへと戻る。


 帰宅してすぐにケータイのフリップを開いて、ディスプレイを見た。


 業者のメールはスパムなので全て削除し、慧子以外の学科の友人などから来た必要なメールだけに目を通し、返信すべきは返信する。


 十月も下旬になる前の部屋は、一際寒い。


 僕は思っていた。


「今年も冷え込むな」と。


 そして同時に慧子と近付ける季節がやってくるのを感じ取っている。

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