素直に
 僕がそう切り出し、勇太君がバンドに所属していて、ギターをやっていることや、ご両親との複雑な関係を洗いざらい話した。


 話を聞きながら、洗い髪の匂いを漂わせている彼女が、やがて、


「その子、多分無理よ。大学に進学しても辞めちゃうと思う」


 と言う。


 慧子は勇太君を進学させない方がいいと言っていた。


 僕も実際そう思っていたのだ。


 確かに現代社会で、高卒や大学中退などで社会に出るのはほぼ難しいだろう。


 勇太君が進学しないで、高卒のまま社会に出たら、苦労するのは目に見えて分かっている。


 だけど、本人が学校や勉強にほとんど興味を示さない以上、学問的なことをさせるのは困難に等しかった。


 むしろ、本人の意思を尊重するのが一番いいと思う。


 音楽の世界で食べていくのはとても厳しいし、実際、夢を語る勇太君は生き生きしているが、果たしてそれで生活できるのかまでは分からない。
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