素直に
 僕が一瞬口を噤(つぐ)む。


 その後、軽く息を吸い込み、


「何でもないよ」


 と返した。


「あの先生、四十代で独身だからね。男子学生にはマドンナ先生みたいに映ってるとは思うけど」


「俺は別に関係ないよ」


 僕はウソをつく。


 あのとき、佳久子の研究室で過ちがあったのは事実だから……。


 下手すると、ああいったことを仕出かした佳久子は懲戒免職になる可能性すらある。


 だけどそうなった場合、僕もこの秋光大にいられなくなるので、あえて誰にも伝えないつもりでいた。


 口にしないで、思っているだけなら何も影響はない。


 僕はこれからも慧子と付き合っていく気でいたし、彼女も僕を必要としているのだ。
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