素直に
 僕はキーを叩き、検索エンジンに単語を入れて検索しながら、資料を集めていた。


 必要な分は随時フラッシュメモリに入れている。


 卒論の題目だけは一応出しておいた。


 上原ゼミでは慣例で、皆が留年せずにちゃんと卒業できるよう、早め早めに卒論を提出させるのだ。


 僕たちも一緒の研究室にいる以上、そういったことは決して怠(なま)けない。

 
 研究ばかりで疲れることもあるのだが、そういったときは頭を休めていた。


 実際、朝から夕方午後六時までパソコンを見続けていると、疲労が溜まる。


 僕はケーキを食べ終わり、ホットコーヒーをブラックのまま啜ると、持ってきてページを開いていた小説を何ということなしに読み続けた。


 太宰治の『斜陽』で、つい最近文庫本で買ったのだ。


 僕自身、この太宰という作家が生前滅茶苦茶なことをしていたのは知っている。


 それに生前はほとんど売れずに、最後は女性と心中したのまで聞いて知っていた。


 だから本来なら評判が悪いはずなのだが、日本ではなぜかしら太宰を知らない人はいな
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