素直に
 院――、それも博士課程までとなると、研究に没頭できる。


 確かにPh.D.はもう無価値だ。


 それに研究し続ければし続けるほど、学問に縛り付けられるだろう。


 だけど、僕はそれでも構わないと思っていた。


 上原研究室の研究員の一人として、ドイツ語関係の仕事をさせてもらうつもりでいたし、実際、在野で研究するよりも大学などの研究機関に残った方がいい。


 上原先生はパソコンをあまり使えない古い型の研究者なのだが、准教授である佳久子は使いこなせるし、他の教員たちも大概一通りは使えていた。


 僕は平成生まれで、コンピューター世代なので、高性能のマシーンを使いながらドイツ語を研究するつもりでいる。


 今はそういうメカを使って研究を行なう研究者が圧倒して多い。


 僕も例外なしにそうだったし、慧子もパソコンは検索したり、データを作ったりする以外にテレビ電話などの機能も使っていた。


 道理で彼女のケータイ代が高くならない理由が分かる。


 慧子は実家の家族とはテレビ電話で話しているらしい。
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