素直に
第29章
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「お大事に」


 受付で病院代を清算すると、僕は処方箋をもらって、すぐ近くの薬局へと向かう。


 おそらく病院の付属薬局に在籍している薬剤師もほとんどが秋光大出身者だろう。


 僕が薬局に入っていき、白衣を着た女性薬剤師に処方箋を差し出すと、


「少々お待ちください」


 と言われて、待たされた。


 時間が出来たので、待合室の椅子に座り、買い込んでいた太宰治の『斜陽』の続きを読み始める。


 薬局内には静かなクラシック音楽が流れていた。


 僕は小説を読みながら、自分の息遣いを感じ取っている。


 呼吸し続けているのが、手に取るように分かった。
 

 今頃、慧子はどうしてるだろう……?


 文庫本から目を離し、しばらく目を休めていると、
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