素直に
 慧子がそう言い、歩き始める。


 僕が後から付いていく。


 さすがに彼女も疲れ知らずだ。


 僕よりも体力的に弱いはずなのに、朝はしっかりと目が覚めている。


 僕が追いつき、並んで歩いていく。


 何か背後に視線を感じていた。


 妙な類の視線だ。


 僕がふっと振り返ると、二十メートルぐらい手前のところに佳久子が立っている。


 そして僕と目が合うと、ニンマリとした。


 一瞬の後に目を逸(そ)らし、僕は前を向いて歩き始める。


「青沼先生よ」


「ああ、分かってる」


「何かあったの?」
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