素直に
「何でもないよ、別に……」


 僕は少しだけ、言葉を濁した。


 慧子が、


「何もなければいいんだけどね」


 と言うと、僕が、


「ああ」


 とだけ返して、誤魔化す。


 僕は佳久子の行動に何か悪質なストーカー行為のようなものを感じていた。


 正門から歩いて、研究室へと向かう。


 僕自身、もう佳久子とのことは忘れたかった。


 あの過ちは自分の積み上げてきたもの全てを壊してしまう。


 仮に同じ学内にいたとしても、極力避けようと思っていた。


 研究室に入っていくと、いつも通りパソコンが立ち上げてある。
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