素直に
 確かに大学の学問となると難しいのだが、僕は一TAとして学生に教え込む場合は、なるだけ話を分かりやすくしている。


 僕たちは学生に教える傍ら、論文も執筆していた。


 大学で助手の仕事をする人間となると、研究論文を書かされるのは当たり前だ。


 それだけプレッシャーがあるということだったし、いかんせん学生に教えるには専門バカじゃまずいので、しっかり勉強していた。


 若葉が萌えるその年の五月、僕たちは大学から帰る途中で、葉桜を見ながら、


「もう会って何年かしら?」


 と慧子が突然訊いてくる。


「二〇〇八年入学だから……もう九年になるね」


「ずっと一緒にいたい。栄司とは」


 彼女がそう言って笑う。


 僕も釣られるようにして笑った。


 緑色の葉桜を見つめながら、僕たちは学内を歩いていく。
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