素直に
 一言礼を言って、髪を拭く。


 僕は髪の毛は短めにしていた。


 いつも大学近くの床屋に行けば、短く刈り込んでもらって。


 スポーツ刈りが一番いいのだ。


 秋冬は幾分長めに刈ってもらって。


 慧子は長い髪の毛をストレートで伸ばしっぱなしにして、綺麗に整えている。


 どうやら女性用のスタイリング剤を使っているようで、シャンプーの残り香と混じって優しく漂う。


 僕たちは互いに手を携(たずさ)え、歩んでいくつもりだった。


 偶然秋光大文学部で共にドイツ語を専門としていたのだから、互いの心のうちが見える。


 素直な気持ちで付き合えていた。


 一つ屋根の下にいるわけじゃなかったが、普段から学内だけでなく、街中でも絶えず接触しているので……。


 男女は三年も付き合うと、お互いのいいところもそうじゃないところも含めて、理解し
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