素直に
 ワープロが普及してから執筆したドクター論文は実に原稿用紙二千枚で、フロッピーディスクを手渡しして、学位の取得が終わったようだ。


 これが大学の文学部の実態なのである。


 上原先生は元々、他県の国立大学を卒業して、秋光大の院にまで行かれた方だ。


 修士課程を修了して、いったん就職されたものの、学問に執着があったらしい。


 僕たちにとっては大先輩に当たる。


 さすがに著作なども多くて模範となる研究者だ。


 同じように院を終了して、複数の大学で日雇い同然の非常勤講師などをしている綾邊などとは大違いなのである。


 僕も慧子も真剣に勉強して、一端(いっぱし)の研究者になるつもりなので、綾邊のような変なヤツの真似はしない。


 いや、真似はしないと言うより、真似してはダメなのである。


 なぜかと言うと、大学の非常勤講師は形を変えたアルバイターに過ぎないのだから……。


 確かに有名な小説家や画家など、いわゆる創作家と言われる人種が、大学に客員教授などで来ているケースはかなりある。
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