素直に
 少なくとも学者になれない場合でも、ドイツ語を生かす仕事に就きたいと思っていた。


 偶然とでも言うべきか、僕たちは揃ってツアーコンダクターなどが集う旅行代理店関係の情報も集めていたし、最悪でもそういったところに就職できるよう、考えている。


 まあ、これは僕たちが滑り止めのためにすることで、本業はあくまで研究なのだったが……。


 濃い目のコーヒーを飲んで意識を覚醒(かくせい)させ、僕と慧子は同じテーブルで過去問の載った冊子を捲る。


 早いに越したことはない。


 僕たちは院でも修士で終わるわけじゃなくて、博士まで行くつもりなのだから……。


 確か棚原は修士まで行ったら、ドイツ語学校の教員になるため、その分の単位を取る予定でいるようだった。


 棚原の判断の方が賢明かもしれないが、僕も慧子も簡単に妥協したくはない。


 何せ研究者になれば、大学で好きな研究がし放題なのだし……。


 それに僕たちはどちらかと言えば人間関係は下手な方だった。


 互いに内向的で、あまり外向きじゃない。
< 64 / 204 >

この作品をシェア

pagetop