素直に
 僕がリダイヤルで掛け直す。


 しばらく呼び出し音が鳴ったが、すぐに留守電に切り替わった。


 僕はメッセージを残すことなく切る。


 何か妙に胸騒ぎがする夜だ。


 僕は自宅に帰る前に、一度慧子のマンションに行ってみるつもりでいた。


 自然と駆け足になる。


 その日は一度も会っていなかったので、気になっていた。


 足早に通りを歩きながら、秋が深まっているのを感じ取る。


 僕が慧子のマンションに着くと、彼女は室内にいるらしく、気配がしていた。


「慧子!……慧子!!」


 僕が扉越しに強い口調で言うと、


「……はーい」


 という気だるそうな声が聞こえてきて、彼女が出てくる。


 ゴホンゴホンと咳をしていて、どうやら風邪を引いているようだった。

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