素直に
 実際、僕も慧子も専門の講義でTA――ティーチングアシスタントの略だが――をすることがよくあった。


 普通は大学でTAをやるのは院生などが多かったのだが、僕たちは後輩にドイツ語やドイツ文学、それに関連事項などに関して教え込むことがある。


 上原先生は脇でそれをじっと聞きながら、学部の学生が伸びていることを実感するらしい。


 要は僕たち自身、院に進学することはすでに上原教授にも伝えていたし、学科内でも数人が院まで行くようだ。


 今という時代、博士号など珍しくも何ともない。


 大抵博士課程まで進んだ人間たちは、博士号を取得している。


 昔は珍しかった。


 Ph.D.――フィロソフィードクター、哲学博士を現す言葉だが――まで持っている人間はそんなにいなくて、大概論文で取るケースばかりだった。


 だけど、今はPh.D.など文学部の付属の院まで進学した人間なら誰もが持っている。


 僕は言わずもがなで研究者になる気でいた。



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