素直に
第17章
     17
 僕はパソコン本体のUSBポートにフラッシュメモリを差し込み、ドイツ関連の文献をネットで探しながら、必要なデータは随時取り込む。


 淡々とキーを叩く。


 僕自身、秋光大文学部ドイツ語学科では、検索エンジンを使うのが誰よりも上手く、達人と呼ばれていた。


 勉強の出来不出来で言えば、中ぐらいだろうが、ネットを使いこなす力は他の学生よりも優れているようだ。


 データ取り込みの作業が午前中いっぱい続いた。


 昼食を食べに行こうと、椅子から立ち上がったとき、ケータイの着信音が鳴り始める。


 大抵、大学の研究室に入る際はマナーモードに設定しておくのが常識だが、僕は結構そういった点はいい加減なのだった。


 それに同級生を含め、他の学生でも授業時間以外だと、ケータイを使っている人間がかなり多い。


 僕がフリップを開き、ディスプレイを見ると、慧子からだった。


 僕は一度研究室を出て、外で電話を取る。
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