素直に
「はい」


 ――ああ、あたしだけど。……今、勉強中だったんでしょう?


「まあね。一応パソコンでデータの取り込みやってたんだ。……何か急用?」


 ――今日一日、自宅で寝ておくから、大学に来れるのは明日以降になると思う。


「いいよ。午後の綾邊のドイツ語原典講読は君の分の出席カードも出しとくから」


 ――ありがとう。じゃあまた明日ね。


「ああ。じゃあな」


 僕がそう言って電話を切ると、佳久子がこっちの方をチラチラと見ている。


 そして目が合うと、微笑みかけてきた。


 僕はわざと無視して、急ぎ足で研究室に置きっぱなしにしていたカバンを取りに行く。


 佳久子は監督が午前中だけだったようで、代わりに正午過ぎてから夕方までの学生指導は上原先生のようだ。


 僕は学内にある学食へと向かう。

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