素直に
 慧子と過ごす時間も大切にしたいのだったから……。


 その日も、僕は午後五時過ぎに上原研究室を出て、家で食事を済ませ、着替えをした。


 そして午後六時半になると自転車に跨(またが)って、勇太君の家へと向かう。


 昼間は学食で食べていて、夕食には食パンを焼いてトーストにし、一枚齧っただけだが……。


 おそらく自宅マンションに帰り着くのは午後十時過ぎとなるだろう。


 僕は自転車を古島家の横にある、駐輪可能なスペースに停め、玄関の呼び鈴を鳴らした。


 ピンポーンという音がして、母親の裕香子が出てきた。


「はい」


「あ、こんばんは。家庭教師の河岡ですが」


「ああ、先生。……今呼びますから」
 

 裕香子が振り返り、


「勇太、先生お見えになったわよ」

< 97 / 204 >

この作品をシェア

pagetop