ギブ・ミー・ヘブン
「うん。」

嵐はそれ以上訊かなかった。


食べ終わると嵐は床にごろりと寝転んで言った。

「どっか出掛けないの。」



今日は休みではないし、どこかに出掛けるつもりなんてない。
外に出れば雄一を思い出させるものばかりで、必要がないなら外に出たくないのは里奈と会っても未だ変わらなかった。

「行かないよ。家でのんびりするつもり。」


嵐は窓の外に目をやって、眩しそうに目を細めて言った。


「外に行きたい。昨日面倒見てやったんだから付き合ってよ。オネーサン。」

急に起き上がって、私の目の前に立ちはだかった。


きれいな瞳―
吸い込まれそうな瞳ってきっとこんな瞳をしているに違いない。
筋の通った鼻、形のいい唇。
天使の顔をした悪魔とはまさに彼の事なのだと思った。
堕ちていく女の子の数だけ彼は輝きを増すのだろう。

「行かないよ。」

彼は私の髪の毛に触れて言った。

「コテ貸して。俺、元美容師なの。」



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