ギブ・ミー・ヘブン

大切なもの

あれから、嵐は私の出勤の日は決まってアルテミスを訪れた。


「もしかして・・・もしかしたの?」

ママが怪しんでいるほどだ。

「いえ、本当にお向かいだから仲良くなっただけなんです。」


仲良くなった?



そんなはずない。
相変わらず私は嵐については
何も知らない




「ママ、今日もきれい。」


嵐がママに微笑みかける。



「上手ね。

ありがとう。

それよりどうして他のお客さんと同伴しないの?」




ママが嵐に問いかける。


「僕がみちるちゃんと離れているのが嫌なので。」


嵐は私の方を見て微笑む。
ママは驚いて私の方を見た。

驚くのは私のほうだ。

そばで聞いていた馴染みの客が嵐に聞こえないように言った。

「あの人、みちるちゃんの特別な人?」




その人は近藤さんという、28歳の会社員だ。
よく、私におにぎりを買ってきてくれるやさしいお客様だ。



「ちがいます。お向かいに住んでるご近所さんで。」



近藤さんはくすくす笑って

「みちるちゃんがあんまり他のお客さんと仲良くするの妬けるな。」

と言うので


慌てて私が

「本当にお向かいなだけなんですってば。」

と言い返すと

「それなら良かった」

と笑っている。



ふいに視線を感じた先に嵐がいた。


怖い目をした嵐が。





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