ギブ・ミー・ヘブン
「伊織!お疲れ~。」


こちらの事情を知る由もない雄一。
当直勤務明けの疲れを引きずったようでもなく、元気な声。


いつものような会話をしたら、きっと私は言い出すきっかけを失うだろう。


「ごめんね。結婚できないや。」


回りくどい言い方は出来ない。
そう思った。


「え。。。」

雄一の言葉を受け入れる余裕はなかったから、一気に喋ることしか出来なかった。


「身内に犯罪歴のある人がいるの。迷惑かけると思う。私は雄一の重荷にはなりたくないし、可能性も潰したくない。

雄一を愛してるけど、雄一の隣には居られない。

今まで本当にありがとう。さよなら。」


雄一の言葉を聞くのがこわくて一気に捲し立てるように言って電話を切り、電源を落とす。


きっと驚いた雄一は何度も電話を掛け直しているに違いない。

だけど、雄一から何も聞きたくなかった。
勝手だけど、雄一の落胆したような声を聞きたくなかった。

もしかしたら死人の犯罪歴は、たいした事ないのかもとも思った。

でも、彼の職場は

「もしかしたら」とか「多分」のような曖昧な表現で切り抜けられる組織ではないし、何より私の存在によって雄一の立場が一変してしまうのが嫌だった。


優しい雄一。

どんな話になろうとも、きっと私の手を取ってくれると思う。

それは私が耐えられない。

手を離すほかに、私は何も出来なかった。




今日


私と雄一を繋ぐ糸は




ほどけてしまった。


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