ヤンデレ
 一番いい方法は、ご主人様が断ることだ。しかし、それはほぼ無理だ。なぜならご主人様は明日の午後は彼女とデートをする予定だったのだ。そんな彼女の失明。彼女の要望を受け入れる可能性の方がずっと高い。



「うん……。うん。分かった。じゃあ明日僕の家だね。……待ってるよ」



 そう言ってご主人様は電話を切った。そして困ったようにベッドの上に倒れ込んだ。



「フィー?」



 ご主人様が力なく僕の名前を呼んだ。



「はい。何でしょうか?」



 私はゆっくりとベッドの下から出てきた。もうご主人様の身体の一片も見るのが辛い。目を合わせてしまったら、私が一条にしたことがばれてしまいそうな気がしたから。



「明日は、大事な予定が入っちゃったんだ。だからまた今度の週末で良いかな?」



「構いませんよ。大体お話は聞いていました……」



 ご主人様は今どう思っているのだろうか。顔を見れない僕は分からない。ひどく悲しんでいるのか。それとも失明させたモノが憎くてしょうがないのか。いずれにせよ。加害者である僕がこのことに口出しする権利は全くない。否、元々なかったのかもしれない。



 所詮は猫と人間。住むべき世界が違うのかもしれない。それを愛やらなんやらで埋められるはずがない。そんな分かりきっていたことを棚に上げて、いっぱしの恋人気取りだ。逆に笑えてしまう。真に裁きを受けなければいけないのは自分だというのに。



「あんまりいい話じゃないからさ。明日は一人で外で遊んでくるといいよ……」



「いえ、僕もここに居させてください。僕のいる場所はご主人様の隣です」

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