ヤンデレ
「ただいま……あれ?フィー?」



 ご主人様は御自分の部屋にいるはずの僕を探してくれている。しかし、私はその時ご主人様にいない。



 僕は、あいつの部屋に上がり込んでいたから。



 ただ一つだけ書置きだけはしておいた。



『明日、ご主人様と一日中遊びたいです。』と。







「あら?こんな部屋に猫が入り込んでくるなんて珍しいわね」



 開けっぱなしの窓から僕は一条なつきの部屋に堂々と入りこんでいた。わざとらしくにゃあ。と鳴くと、あいつは可愛い。と言って無防備な首筋を近づけ私をなでてくる。



 ――気持ち悪い。吐きたくなる……。



 それでも私はそう言った感情を排除してもう一度可愛くにゃあ。と鳴く。またお案じことをして撫でてくる。



 突然歌が流れだした。音の出所はあいつの携帯。そしてどこかで聞いたことのある音楽、それはご主人様がいつも聞いているミュージシャンの歌だった。



「もしもし?太一君!今日は楽しかったよ!えっ?明日も?もちろん遊びに行くよ!場所は――うん。昨日と同じ場所で待ち合わせね。うん。分かった」



 太一はご主人様の下の名前。あいつは馴れ馴れしく下の名前で呼んでいる。そしてご主人様もご主人様だ。私の書置きを見たはずだ。いや、見ていないとおかしい。あの書置きは部屋の真ん中――テーブルに置いてきたのだ。それを見ていないわけがない。



 僕はご主人様に向かって必死に鳴き始める。必死にあいつの電話を奪ってご主人様に言わなきゃ!
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