忘れない、温もりを

よろしく

「小腹空かん?」

そう言うと彼は
ごく自然に

あたしの手を取った。



汗がにじんだ彼の手のひらを感じ、
あっ、
と声を漏らすと

「あかん…身体が勝手に動いてしもた」


そう笑った彼だけど、まだ2人の手は繋がってて

その手にあった視線を彼に上げると、
口に薄い笑みを浮かべて

首を傾げた彼が目に映り


手に込める力が
心なしか 増した。




あたしが困ったように下唇を噛み、同じように首を傾けると

彼の唇が開き
八重歯が光った。



「行こか!」

あたしの手を引き



歩きだした。




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