忘れない、温もりを
どちらかというと
人見知りなあたし。

こんな風に初対面の人と話してる自分がすごく不思議だった。


仁は

すごく


不思議な人だった。


コロコロ変わる表情に
独特の話のテンポ
よく通る低い声が

心地いい


よく笑う彼だけど
時折みせる表情が
どこか切なげで……



とにもかくにも
話は盛り上がり
時間は逃げるようにすぎ

お茶だけのつもりが


夕方からディナーダイニングに変わった
その喫茶店で軽めの夕食を食べ、

いつのまにか
時計は20時を回っていた。


「ひな、時間平気?」

カバンから携帯を取り出し小さなディスプレイに表示された時間を見た。

「んー…そろそろ帰ろうかなあ…」
「ん。駅まで送ってくわ」


喫茶店を出ると、
あの昼間の暑さはすっかり引き、けだるい湿気だけが残っていた。


「なんか気持ち悪いなあ、この湿度」
「……うん」

遠くの空に
少しだけ覗いた月を見つけ
あたしの手を取った。



駅までの道、
仁が一番近くの入り口を通り過ぎたのに気付いたけど
あたしは見ないふりをした。


会話は少しずつ減って

手にこもる力は増した。



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