春の空
「あー、次、坂田雄二君。」
黒板の方から、森田の声が聞こえて来た。
そうこう考えている内に自分の番が来てしまったようだ。
とりあえず、何事も始めが肝心と思い、ネタなどはいれずに
オーソドックスなあいさつをすることに雄二は決めた。
雄二は椅子から立ち上がり、出来るだけ噛まないように言葉を紡ぐ。
「えー、坂田雄二です。好きな食べ物は、ラーm『遅れましたぁー!!』…。」
雄二がラーメンのメの字を紡いでいる刹那、教室のドアが開け放たれ、
威勢の良い女の子の声が雄二の耳に飛び込んできた。
誰だよ。折角、噛まずにうまく言えてたのに台無しだ…。雄二は心のうちでそう呟く。
しかし、雄二のそんな感情は先生の一言で吹き飛んだ。
「遅いよ、“赤石祐樹”君!」
なんと、“赤石祐樹”は女の子だったのだ。
雄二は名前からして、男だと思っていたが、
“赤石祐樹”は女だった。しかも、三年の初日から遅れて来るような。
唖然と突っ立っている雄二をよそに、赤石は森田に、悪い悪い、と一声かけて、
自分の席へと座るのだった。そして、
隣で唖然と、突っ立っている雄二を見て、自己紹介を邪魔してしまったと気付いた赤石は、
「ごめんね、坂田君!」
と、言いながら、雄二の肩をパンパンと叩いた。


これは、後の保健室でわかった話だが、叩かれたところは脱臼していた。

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