マスク・ドール
やがて白く厚い雲が出てきた。

細い三日月が、雲によって見え隠れする。

ふと、ヒミカは空気の流れが変わったのを気付いた。

「…おいでなすったわね」

「ヒミカ…」

「キシはここにいて。カミナ先生、よろしくお願いします」

「はい」

二人から少し離れた所に、専門学校の教師であり、キシの護衛役の女性・カミナがいた。

ヒミカはジーンズのポケットから、手のひらサイズの小瓶を取り出した。

中身は赤い。―血だ。

ヒミカはフタを開けると、ためらい無く飲み干す。

血族が作り出した、人工血液だった。

「あ~、マッズイ。じゃあ、行ってくるわね」

「ご武運を」

苦笑するキシに微笑みかけ、ヒミカは屋上を飛び降りた。

その両目は血のように赤く染まっていた。
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