天使と野獣
「そうか、悪いな。明日必ず持って来る。用紙をくれ。」
京介がほっとしたような顔をしてそんな事を言い出したから、
条件を出した高木を初め、教師達はまたまた呆れた顔をしている。
こいつ、ひょっとしたら東京大学の医学部というのがどんなところか知らないのか。
まさかそんな事は無いだろうが…
この調子の良い、肩の荷が下りたような顔はどこから来ているのだ。
とにかくその条件が通れば卒業式に出られる、
と言うことで京介は安心して下校した。
後に残った教師達は目にした光景に呆れ、
しばらくは唖然とした顔をしたまま自分の席に座っていた。
翌朝、京介は真剣な顔をして職員室を訪れた。
そして無言のまま受験申し込み用紙を高木に渡し…
何があると言うのか、
話辛そうな顔をして高木を見つめている。
それを感じた高木は、内心、
やはり東大は無理だと悟り、
今までの無礼を謝り、留年でも止む無し、と言いたいのだろう、と思っていた。
高木は勿論、昨日の経緯を見ていた教師達は、
また自分の仕事をしているふりをして耳を精一杯広げている。
しかし…
「先生、この金で受験勉強に必要なモノを揃えてくれ。
俺は… 見当がつかん。
父が、それなりの教本や問題集があるだろうが、
いろいろあるから先生に教えてもらえ、と言った。
父は、あと一か月だからどれが一番良いのか分からない、そうだ。
頼む、今日買うのを手伝って欲しい。」
そう言いながら京介は財布を机に置いた。
金はある、と言うのを見せたのだ。