天使と野獣
「警部さん、大丈夫か。
ひでえなあ。」
埠頭の埋めたて工事現場に置かれたドラム缶を囲むように、
する術なく大勢の警察関係者が立っている。
その人だかりの間をぬってドラム缶を見た、
京介の第一声だ。
佐伯の顔は、確かにかなり殴られたようで変色、変形している。
それにも増してその顔色の悪さ…
黒ずみ、血の気の無いそれは…
目は閉じているが、たまに頭が微かに動く。
それでまだ辛うじて生きていると思われるが…
早く何とかしなければ、
誰が見ても心臓が止まるのも時間の問題だった。
「父さん、どうする。」
空手を使えば、
自分ならドラム缶でもコンクリートでも粉飾する自信はある。
しかし、そうなれば、中の人間はひとたまりもない。
壊すのは得意だが…
そう考えると… ノー・アイデアの京介だ。
「そうだなあ… お前、まだ刀を使えるか。」
栄は何を考えているのか、
京介が小学生の時にしていた剣道を持ち出した。
刀を使えるか…
剣道着をつければ凛々しい少年剣士だったかも知れないが、
所詮は竹刀での勝負まで。
京介が真剣の小太刀を持ったのだって、
五年生の試合の後だけ。
優勝した褒美に貰ったのだ。
しかし、その後、母が他界し…
以後、それがどうなったかも覚えてはいない。
が、人がいる中で、使えるか、と聞かれて、
使えない、とは言いたくない京介だ。