天使と野獣

「剣道か。
まあその心は空手と相通じるものはあるが… 

だけど父さん、コンクリートが刀で切れるか。
いや、このコンクリートを固めているドラム缶だけを斬れと言うのだろ。

死神が持っているザンパク刀や五右衛門のザンテツ剣だったか、
こんにゃく以外は何でも切ってしまうあの刀でもあれば別だが、

あれはアニメの中の話だから… 
現実には無理ではないか。」



京介が、アニメを楽しむ京介など想像できないが、
そんな言葉を口にしている。

要するに、京介は想定外の言葉を聞いたのだ。




「馬鹿、わしはそんな事は知らん。
ここに我が家のご先祖様が大事に保管していた名刀がある。

お前も知っている通り、
わしは刀など握ったことも無い。

しかし、かなりの名刀らしいからお前、どうだ。」



栄はそう言いながら、
昨日の夜、
家を出る時に持ってきた杖状のものを、

京介に見せるようにゆっくりと
巻いてあるさらしのような白い布をはずしている。

中からは鍔のはずされた刀剣が顔を出し、

栄はそれを京介に握らせた。


それを握った京介は珍しそうに眺めている。

子供用の小太刀ではなく、
サイズも本物の、
刀剣を握ったのは初めてだ。

ずっしりとして… 
握るほどに刀の威力が自分の腕に乗り移ってくるようだ。

京介はそのまま、その感覚を楽しんでいる。

その顔は… 
その刀の魔力が乗り移ったような表情になっている。

まさに、果し合いに挑む剣士のように、

鋭い眼差しで躊躇なくその刀を天に掲げた。


それは太陽の光の反射で、

場数を踏んだ剣士が、

刀の状態を観察しているようにも見える。

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