天使と野獣
どうやら、京介はカメレオンのように、
その状況に応じた雰囲気を出す事が上手いようだ。
そう、完全に剣豪になりきっている。
「父さん、これ、どうしたんだ。
ひょっとしてすごい名刀じゃあないのか。
この冴えた輝き、心が吸い込まれそうだ。
不思議な力を感じる。
これって妖刀と呼んだ方が似合っている。
まさか、妖刀マサムネか。」
しばらくして、京介が興奮した口調で栄を見た。
その栄は、京介の言葉には応じず、
ふん、と言う様な顔をしている。
イエスでもノーでも受け取れる顔だ。
こんな風に真剣を手にするとは思わなかったが…
名刀マサムネなら不足はない。
と言う様な顔をして、
京介はマサムネの餌食となるモノを見つめている。
いくら剣道大会で強かったとは言え、
小学生で剣道をやめている京介に、
刀に対する知識があるとは考えられない。
しかし、刀を構えたその姿、
口から出る、その自信ある言葉、
まさに達人のような雰囲気だ。
その様子に、周りにいる警察官たちは初め驚き、
すぐにあきれた顔をして東条親子を見ている。
が、あざ笑うような顔は誰もしていない。
警察官だから、剣道をしている人も大勢いるだろうが…
刀でコンクリートの詰まったドラム缶を、
それも警部を傷つけずに外側だけを、
なんて、考えもしない。
いや、不可能だ。
しかし栄は、ふっ、と言う意味ありげな笑みを漏らし、
無言のまま息子を見ている。