天使と野獣
目を凝らせば佐伯の手が見えるではないか。
それを見た警察官たちは、
にわかには信じられない光景だったが、
すぐに歓声を上げながら、崩れたドラム缶に近寄り、
佐伯を取り囲んでいるコンクリート崩しを始めた。
手の位置が分ればその回りから少しずつ剥がしていけば良いのだ。
これで警部は助かる。
「父さん、これ、本当にマサムネか。
刃がこんなにボロボロになってしまった。
確かにドラム缶は切れたが… 」
警察官の動きを他所に、
京介は自分が使った刀を見つめて
納得のいかないような顔をしている。
京介の知識の中では、
名刀でも妖刀でも、
有名なマサムネならもう少しまともなはずだった。
父の実家は元武家で職業軍人の家柄、
父の義父はその武家の家を嫌って大工になったと聞いているが、
家にマサムネがあると言うことは聞いたことも無かった。
しかし、その刀は…
京介にとってはマサムネのはずだった。
「さあなあ。
一度古美術商が良い刀だと言ったことはあるが、
マサムネという名前は聞いたことは無い。
が、お前がそう思ったのならそうではないのか。
わしは刀など興味無いし、
刀のことなどさっぱり分らん。」
栄はそんな事を言いながら、
京介の仕事振りに満足気な笑みを送った。
そう信じて、良い結果が出せたのなら、
何も言う事はないではないか、と、その顔は言っている。