天使と野獣
「父さん… こんな時間にどうした。」
自分の行為は棚に上げ、
想定外の行動をしている父親に驚いた京介だ。
「馬鹿。お前がずっと学校へ行っていないと聞き、
驚いて戻ってきただけだ。
学校へは体調が悪いと言っているらしいが、
わしの目にはそんな事は映っていない。
ここで何をしている。
学校へ行く振りをしてずっとここに籠もっていたのか。
明日は卒業式だぞ。」
「分っているよ。
明日は父さんと一緒に行くつもりだ。
ここは… 俺、ここにこんな物が詰まっているなんて知らなかった。
納戸なんてあることも、
意識したことも無かった。」
やはり京介も親の子だったようだ。
親に隠れてしたと言う事に、
少なからず罪悪感らしきものがあるらしい。
その証拠に京介は珍しく
悔いているような顔を滲ませている。
そして手には、その時まさに眺めていたのだろう、
色あせた白黒写真が握られている。
「わしもだ。お前、ここに興味があったのか。
これらは大田区の家にあったものばかり、
骨董屋が買い取るのを躊躇ったから
仕方なくここに運び入れていただけだ。
お前、気に入ったのならやるから、こそこそ見るな。
わしには不要なものばかりだ。」
いつもは情の厚い穏やかな栄だが、
なぜかその言葉には憎しみさえ感じられる。
「だけど… これって父さんのルーツじゃあないか。
この写真に写っているのは誰だ。
こっちの人は目つきが鋭くて、
木刀をさしているのにもう一本手にしている。
強そうだ。
あれ、これはあの時の偽マサムネだ。
この時も鞘ははずしてある。
じゃあ、あれはこの人の刀だったのか。」
京介が差し出した写真には二人の若者が、
二人とも同じように袴姿で写っている。
年のころは… 十五・六歳か。