天使と野獣

小太刀… 

いつか自分も、先祖の魂が入っている、とか言ってもらった。

そう言えば、あれはどうなったのだ。

つい最近も、一度考えたが… 
いきなりそんなことが頭に浮かび、京介の心は焦った。

畜生… 全く覚えていない。

今さら父さんに聞くわけにも行かない。

いや、今はその時期ではないが、
いつか聞かなければ… 

どのご先祖様かは知らないが、
せっかくのものを、
なくした、なんて言えるわけがない。




「そうか。父さん、
明日、卒業式の後、大田区へ行こう。

墓参りだ。 母さんだけではなく、
東条家のご先祖様にも、俺の卒業を報告して来よう。」


「ほう、お前、墓は大嫌いではなかったのか。」



そうなのだ。

京介は、死んだ人に会いに行く、墓参りは嫌いだった。

やはり… 死んだ人に呼ばれそうで、気持が悪かった。

いくら母が眠っている、と言われても、いやだった。

法事の後、皆で墓へ行っても… 
京介はそのまま本堂の近くから見ているだけだった。



「変わった。
俺、剣二郎じいちゃんに報告したい事が出来た。

それから母さんにも… 」


「母さん… 母さんは喜ぶぞ。
母さんは看護師だったから、
お前が医学の道に進むと聞けば、

私の子供は強くて賢いのよ、って、
皆に自慢するぞ。」


「違う。母さんに、
俺から父さんを取るな、って
言っておかなくては、と思っている。

男は女に弱いからな。

俺と母さんを天秤にかければ、
父さん、口ではなんと言っても母さんの方に転ぶ。

俺は母さんが好きだが、
父さんの方がその何倍も大切だ。

父さんも、墓の母さんによく言っておいてくれ。」



まるで冗談のような事を、
本気の顔をして口にする京介。

多分本心だろう。
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